結局、どれをどこに入れるのか — EMI 対策部品の羅針盤 (3) 選定フロー編
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はじめに
EMI 対策部品の羅針盤、最終回です。
- 第 1 本: 「0.1μF」はいつまでコンデンサか(コンデンサ編)
- 第 2 本: チップビーズは、ノイズを熱にして捨てる(チップビーズ編)
- 第 3 本(この記事): 選定フロー編
第 1 本ではコンデンサの V 字カーブと SRF を、第 2 本ではビーズの Z/R/X と「目覚めの周波数」を読みました。どちらも「部品 1 個を、データシートからどう読むか」の話でした。
でも、実際の現場で困るのはその手前です。「いま目の前にあるこの基板に、そもそも何を、どこに入れればいいのか」。部品の読み方が分かっても、選ぶ順番が分からないと手が止まります。
この記事は、その順番を 1 枚のフローチャートにします。そして、私が産業機器の電源ラインで実際に相手にしてきた「DC24V・1MHz・−40dB」という現実的なお題を、そのフローを歩きながら最後まで一緒に解いていきます。仕上げに、メーカーが部品の実測特性を配布している S パラメータ(.s2p)という形式を、emi-compass で読み込む流れまで通します。
この記事で持ち帰れるもの:
- 「まず何を考えるか」の選定フローチャート(最初の分岐は「アナログ信号を扱うか?」)
- 周波数帯ごとの部品の守備範囲マップ(コンデンサ / ビーズ / LC フィルタの分担)
- ビーズが効かない低い周波数(1MHz など)をどう抑えるか — LC(π 型)フィルタの処方と落とし穴
- データシートを見るときの 4 点チェック(連作全体のまとめ)
- スミスチャートの種明かし — 見慣れないあのグラフと、シンプルなグラフは同じものだという話
進め方はこれまでと同じです。むずかしいグラフはシンプルなグラフに置き換え、図は等価回路モデルから Python で自作します。スコープも前回までと同じ、ディファレンシャルモードの話です。
最初の分岐 — 「アナログ信号を扱うか?」
選定でいちばん最初に決めるべきは、部品の種類ではありません。その基板が、アナログ信号を扱うかどうかです。ここで対策の「必須度」がまるごと変わります。

デジタルだけの回路 — ノイズには「マージン」がある
マイコンとロジック IC だけ、というような回路は、実はノイズにそこそこ強いです。理由は しきい値(閾値) があるからです。たとえば 3.3V 系なら「2.0V 以上は H、0.8V 以下は L」のように、多少電圧が揺れても論理レベルは変わらない幅(ノイズマージン)を持っています。
だからデジタル回路のディファレンシャル対策は、多くの場合「電源の暴れで誤動作しない程度に、各 IC の電源ピンをパスコンで支える」一般的なデカップリングで足ります。第 1 本でやった、IC ピン直近に MLCC、というあれです。
ただし、ここで言っているのは「回路が誤動作しない」という話です。「EMC 試験(外への放射ノイズ)に通る」かどうかは別問題で、デジタル回路はむしろノイズを出す側になりやすく、機能は守れていても試験で引っかかることはよくあります。なお、サージ・静電気(TVS / バリスタ)は「壊さないため」の別カテゴリなので、ここでは切り分けて考えます。
アナログ信号を扱う — 対策は実質「必須」
センサのアナログ出力、オペアンプ、AD コンバータ(ADC)。こういう回路が入った瞬間、話が変わります。アナログ信号には、しきい値がないからです。
12bit・3.3V フルスケールの ADC を例にすると、1LSB はおよそ 0.8mV です。0.8mV のノイズが、もう最下位ビットの誤差として数字に乗ります。しかも厄介なのは、
- 後から分離できない: いったん信号にノイズが足し算されてしまうと、両者は同じ「電圧」なので、あとからフィルタで綺麗に引き算するのは難しい
- 増幅段が一緒に増幅する: 微小信号を増幅するアナログ回路は、混入したノイズも律儀に同じ倍率で増幅します
つまりアナログ回路では「ノイズが乗ってから対処する」のがそもそも苦しい。乗る前に、対策部品で源流を抑えるのが実質必須になります。「あってもなくても動く」とは言えなくなる領域です。
この分岐を最初に置くと、後がぶれません。デジタルだけなら機能のマージンを確かめる程度に、アナログ信号を扱うなら最初から本気で。 これが羅針盤の北の方角です。
周波数で部品が決まる — 守備範囲マップ
分岐を抜けたら、次は「抑えたいノイズが何 Hz にいるか」です。連作を通して言い続けてきたとおり、EMI 対策は周波数軸の勝負で、部品ごとに守備範囲が決まっています。

ざっくり 3 つの帯域で整理できます。
| 帯域 | 代表的なノイズ源 | 主役の部品 → 効きを決める数字 |
|---|---|---|
| 低域 数kHz〜 数百kHz |
スイッチング電源の基本波・ PWM キャリア |
LC(π 型)フィルタ/チョーク+大容量電解 → カットオフ周波数 |
| 中域 数MHz〜 数十MHz |
スイッチングの高調波・クロック | MLCC シャント/ビーズ → コンデンサの SRF |
| 高域 数十MHz〜 GHz |
クロック高調波・放射 | 三端子コンデンサ/小容量 MLCC /ビーズの R 帯域 → ESL・目覚めの周波数 |
ここで第 1 本・第 2 本の数字が効いてきます。コンデンサは SRF より上では効かない。ビーズは 目覚めの周波数より下ではただのインダクタ。だから「この周波数を抑えたい」が決まると、使える部品はかなり絞られます。
そして大事なのが、いちばん左の低域は、ビーズもコンデンサ単体も苦手だということ。ここに次のお題があります。
ケーススタディ: DC24V を 1MHz で −40dB
ここからは実際のお題です。産業機器の電源でよくある状況を一般化したものです。
- DC24V の電源ライン
- 同じ装置の中でサーボモータが動いていて、そのスイッチングノイズが電源ラインに乗ってくる
- 基板にはアナログ回路(センサ + ADC)もある
- 問題になっているのは 1MHz 付近で、ここを −40dB(1/100)まで抑えたい
フローを歩く
- アナログ信号を扱うか? → 扱う(ADC がある)。本気の対策が要る側
- ノイズの周波数は? → 1MHz
- 1MHz はビーズの守備範囲か? → 微妙です。一般的なチップビーズの「目覚めの周波数」は数 MHz〜数十 MHz のことが多く、1MHz ではまだインダクタ寄りで、R 支配になっていません。ビーズ単体で 1MHz を −40dB は、かなり苦しい
- → ビーズには低すぎる帯域なので、LC(π 型)フィルタの出番
処方箋: π 型 LC フィルタ
1MHz を 40dB も落とすなら、ローパスフィルタのカットオフを 1MHz よりずっと下に置いて、その上を坂道で削り落とすのが素直です。LC の 2 次フィルタは、カットオフより上で 40dB/dec(周波数 10 倍で 40dB)の傾きで落ちます。

定番の構成はこうです。ノイズはサーボ側(入力)から入ってきて、守りたいアナログ回路は出力側にあります。

- 入口に小さめの MLCC で、ノイズの第一波を GND へ逃がし
- チョーク(電源ラインに直列に入れるインダクタ。10〜47μH)でせき止め
- 出口に 大容量電解(100μF クラス)を置いて低域を受け止め、さらに IC 近傍の MLCC で高域を仕上げる
ここでやりたいのは、1MHz よりずっと低いところに「曲がり角(カットオフ)」を作ることです。曲がり角より上では、フィルタが周波数とともにノイズを削ってくれます。その曲がり角を作る主役が、チョークと「その出口側のコンデンサ」が作る 2 次 LC です。
カットオフ周波数は fc = 1/(2π√(L·C))。数字を入れてみます。
- L = 22μH、出口の C = 100μF → fc ≒ 3.4kHz
- 1MHz は、その fc のおよそ 300 倍上
だから 1MHz は、フィルタの坂をだいぶ下ったところにいます。40dB/dec の坂を 2.5 桁分すべり落ちるので、理屈の上では 100dB 近い減衰。目標の −40dB に対しては、計算上たっぷり余裕があります。
この数字は、手元で再現できます。いま手で追った fc・1MHz の減衰・共振ピークが、同じ条件でそのまま出てきます。
$ emi-compass filter --l 22u --c 100u --at 1M
cutoff fc = 3.39 kHz
attenuation at 1 MHz = 98.8 dB
resonance peak +10.0 dB at 3.3 kHz
ただし「−40dB が目標なら 100dB は過剰だから、もっと小さな部品(高い fc)で済むのでは」と思っても、そのまま小さくはできません。高い周波数ほど、チョークの巻線容量のような実部品の寄生成分が見えてきて、坂道は途中で寝てしまうからです。理屈上のマージンは大きめに取っておくのが安全です。そのうえで「部品を小さくする = fc を上げる」には、もう一つ別の下限があって、それが次の落とし穴です。
ここでの fc・−99dB は、チョークと出口側のコンデンサを理想 2 次 LC として見たときの目安で、π 型全体を厳密に解いた値ではありません(実際のカーブは両側のコンデンサ・電源/負荷インピーダンス・ESR で変わります)。それでも「大容量の電解とチョークが低域を、MLCC が高域を担当する」という役割分担は変わりません。第 1 本で「大容量コンデンサは高域では効かない」と書いたのを覚えていれば、なぜ電解 1 個では済まず、出口側に MLCC も要るのかが分かります。
このケースの落とし穴 3 つ
ここからが本番です。LC フィルタは、計算(シミュレーション)どおりには効いてくれません。 「机上では −99dB なのに、実機で測ると全然落ちない」——その差を生むのが、これから挙げる 3 つの落とし穴です。
落とし穴 1: 共振ピークと PWM キャリアの重なり
LC フィルタは、カットオフ fc の近く(1/(2π√(L·C)) で決まる固有周波数)に共振ピークを持ちます。第 2 本のビーズ + C と同じ、L と C の共振です。ダンピングが足りないと、fc 付近では信号がかえって増幅されます。
何が怖いかというと、サーボの PWM キャリア(モータを回すスイッチングの基本周波数。10〜20kHz あたり)が、この fc 付近に重なりやすいことです。上の例の fc = 3.4kHz は安全側ですが、部品を小さくしようと fc を上げていくと、キャリア周波数に近づき、最悪そこに共振ピークが重なります。「電源フィルタを入れたら、キャリア周波数のリップルが増えた」という、第 2 本と同じ筋の事故です。

対策は、第 2 本と同じくダンピングです。ここで効くのが、電解コンデンサの ESR。出口側のコンデンサを MLCC のような低 ESR だけで組むとピークが尖りますが、出口側に ESR がそこそこある電解コンを置く(または並列に足す)と、その抵抗分が共振を抑えるダンパとして働きます。「低 ESR ほど良い」が常に正しいわけではない、という EMI らしい逆説です。
ESR を 0.5Ω 足して、数字で効果を見てみましょう。
$ emi-compass filter --l 22u --c 100u --esr 0.5 --at 1M
attenuation at 1 MHz = 48.8 dB
resonance peak +1.1 dB at 2.34 kHz
共振ピークが +10dB → +1.1dB にスッと収まりました。引き換えに 1MHz の減衰は 98.8 → 48.8dB に減りますが、目標の「40dB 以上の減衰」(= −40dB)はまだ満たしている。これがダンピングの現実的な落としどころです。
落とし穴 2: チョークの直流重畳
第 2 本でビーズの直流重畳(DC バイアス)をやりました。チョークもまったく同じです。電源ラインのチョークには負荷電流がそのまま流れるので、コアが飽和してインダクタンスが下がる。
カタログの「22μH」は電流ゼロ近くの値で、定格電流に近づくと半分以下になることもあります。L が半分になれば fc は √2 倍上がり、40dB/dec の坂全体が右にずれて、1MHz の減衰量が足りなくなる。チョークは「実際に流す電流のところで何 μH 残っているか」で選びます。
落とし穴 3: MLCC の DC バイアス
24V ラインに MLCC を使うとき、これを忘れると静かに効き目が消えます。大きな容量を小さく作れるタイプの MLCC(X5R / X7R などの高誘電率系)は、直流電圧をかけると容量がごっそり減るんです。25V 定格の品に 24V をかけると、表示容量の半分以下しか残らないことも普通にあります。

対策はシンプルで、定格電圧に余裕を持たせること。24V ラインなら最低でも 50V 品、できればもっと上を選びます。第 1 本で描いた V 字カーブは「表示容量」で描いていますが、実際の C はこの DC バイアスのぶん減るため、容量で効く左側の |Z| が上に浮いて(その帯域のバイパスが効きにくくなり)、SRF も右にずれる、と頭の隅に置いておくと安心です。
3 つはつながっている
この 3 つの落とし穴は、別々の問題に見えて、実は 1 本の線でつながっています。
落とし穴 2(チョークの L 低下)と落とし穴 3(MLCC の C 低下)が起きると、数式上、どちらもカットオフ周波数 fc を高いほうへ押し上げます(fc は L・C が小さいほど高い)。そして fc が上がるほど、その上にいる落とし穴 1 の PWM キャリア帯(10〜20kHz)に近づいていく。共振ピークが、いちばん来てほしくない場所に乗ってしまう側へ動くわけです。
根っこは 1 つです。カタログ値は「電流ゼロ・電圧ゼロ」の理想条件で、実際の動作点では L も C も目減りします。その目減りが fc をずらし、ずれた fc が共振の置き場所を狂わせる。だからこの 3 つは、バラバラにではなくセットで確かめます。
配線も部品のうち — 1nH/mm
ここまでで、部品は選べました。でも EMI 対策は、選んだ部品を「どこに置くか」でも効き目が変わります。部品を正しく選んでも、配線で台無しになることがある。これは連作の締めくくりとして、もう一度強調しておきたい点です。
配線やビアは、約 1nH/mm のインダクタンスを持ちます。第 1 本で見たとおり、コンデンサの ESL にこれが直列に足されると、SRF が下がって高域の効きが落ちます。

emi-compass cap --c 0.1u --esl 0.5n # 部品だけ:SRF 22.5MHz
emi-compass cap --c 0.1u --esl 5.5n # +5mm配線:SRF 6.8MHz に転落
たった 5mm で SRF が 22.5MHz → 6.8MHz に落ち、100MHz の |Z| が約 11.5 倍悪化します。どんなに良い部品を選んでも、IC ピンから遠ざけた瞬間に効果は逃げていく。フローチャートの最後の枝には、いつも「配線とレイアウトを確認」を置いておきたいところです。
メーカーの実測データを見る — S パラメータ(.s2p)
ここまで全部、教科書的な等価回路モデルで描いてきました。種も仕掛けも見えるのが利点ですが、実部品のカーブとは細部が違います。最後の答え合わせは、自分のモデルではなく、メーカーの実測データでやるのが筋です。
主要メーカーは部品の実測特性を、S パラメータと呼ばれる形式のデータファイル(拡張子 .s2p、Touchstone 形式)として配布しています。中身は「周波数ごとの測定値が並んだ表」くらいに思っておけば十分です。emi-compass はこの .s2p を読み込めます。本物のメーカーファイルも、下で使うサンプルとまったく同じコマンドで読み込めます。
emi-compass touchstone samples/sample_bead.s2p # 実測データから |Z| と挿入損失を描く
スミスチャートの種明かし
S パラメータの話になると、決まってスミスチャートという丸いグラフが出てきます。初めて見ると「なんで円なんだろう」というところで止まりがちですよね。第 1 本の冒頭で「むずかしいグラフはシンプルなグラフに置き換える」と約束したので、最後にその約束をここで果たします。
結論から先に言うと、スミスチャートと、いつもの「周波数 × 効き目」グラフは、同じ 1 つの測定ファイル(.s2p)を別の描き方で見せているだけです。中身は変わりません。

まず、反射係数だけ先に押さえます。部品に信号を入れたとき、どれくらい跳ね返ってくるかを表す数のことです。跳ね返りには「大きさ」と「向き(位相)」があるので、1 つの複素数で表します。スミスチャートは、この複素数を円の中の 1 点として置いたものです。
周波数を低いほうから高いほうへ動かしていくと、跳ね返り方が少しずつ変わるので、点が円の中をたどって動きます。左図の赤い線がその軌跡で、1MHz → 100MHz → 1GHz と進んでいます。高周波の人がこの形を好むのは、インピーダンスの整合(マッチング)を見るのに都合がいいからです。
ただ、EMI 対策で知りたいのは「この周波数で |Z| がいくつか」だけ。それなら、右の「周波数 × |Z|」のグラフのほうが、ひと目で読めてずっと速いです。これは同じ .s2p ファイルの通過特性(S21)から、直列に入れた部品の |Z| を計算し直して、横軸=周波数で並べ直しただけのものです。
emi-compass は、同じ .s2p ファイルから左右どちらも描けます。スミスチャートは「こういうものか」と一度眺めれば十分で、普段づかいは右のシンプルなグラフで足ります。これが種明かしです。
注: 記事で使う
samples/sample_bead.s2pは、説明用に emi-compass 自身のモデルから書き出した合成データです(本物のメーカーファイルは各社サイトで配布されています)。読み込みの流れを試すためのサンプルとして同梱しています。
データシート 4 点チェック — 連作の総まとめ
連作 3 本を、データシートを開いたときに見る 4 点に圧縮します。これがこの羅針盤の本体です。
- 周波数 — その部品は、抑えたい周波数で本来の働きをするか
コンデンサなら SRF より下か、ビーズなら R が X より上(目覚めの周波数より上)か。守備範囲の外なら、別の部品を選ぶ - 相手のインピーダンス — 効き目は相手との比で決まる
データシートの dB は 50Ω 系の値。シャント(コンデンサ)は相手が高インピーダンスなほど、直列(ビーズ)は相手が低インピーダンスなほど効く。50Ω の dB をそのまま信じない - 直流条件 — カタログ値は「電流ゼロ・電圧ゼロ」のとき
MLCC は DC バイアスで容量減、ビーズ・チョークは直流重畳で飽和、電源ラインなら定格電流と DCR(電圧降下・発熱)。実際に流す電流・かける電圧のところで、何が残っているか - 組み合わせ — 共振の置き場所を運に任せない
コンデンサ並列の反共振、ビーズ + C の反共振、LC フィルタの共振ピーク。どこにピークが立つかを計算で確かめ、必要なら ESR でダンピングする

この 4 点と、最初の「アナログ信号を扱うか?」の分岐。これだけ手元にあれば、部品表の海でも方角を見失わずに済むはずです。
おまけ: emi-compass の最終版
連作の伴走ツール emi-compass(GitHub・MIT)に、この記事ぶんを追加しました。連作 3 本分のコマンドと図の生成スクリプトが、これで全部入りです。
pip install -U git+https://github.com/logicia32/emi-compass
emi-compass cap --c 0.1u --esl 0.5n # 第1本:コンデンサのV字
emi-compass bead # 第2本:ビーズのZ/R/X
emi-compass filter --l 22u --c 100u # 第3本:LCフィルタの伝達特性とfc
emi-compass touchstone samples/sample_bead.s2p # 第3本:実測データ(.s2p)を読む
filter は π 型 LC フィルタのカットオフ・共振ピーク・ダンピングの効きを描きます。上のケーススタディの数字は、これで再現できます。
この記事のモデルと、実部品のギャップ
この記事の等価回路モデルは、データシートにある実測グラフを、最小限のパラメータで近似的に再現するために選んでいます。まず、モデルが現実のどこを見ているか、その「当たり先」を対応づけておきます。
- 落とし穴 3(DC バイアス) →
DC Bias Characteristics(容量 vs DC 電圧) - 落とし穴 2(直流重畳) →
Inductance vs. DC Current(重畳特性) - 配線の図(コンデンサ/インダクタの自己共振 SRF) →
Impedance vs. Frequency - S パラメータの図 → メーカー提供の
.s2pファイル(ある場合)
細部の数値は完全には一致しなくても、「どちらへ、どう効くか」という方向性は合います。だから「選ぶときの当たりをつける」用途には十分です。そのうえで、モデルと実部品でズレるところも、正直に挙げておきます。
- LC フィルタの伝達特性は理想素子(理想 L・理想 C + 指定した ESR)で計算しています。実部品では、チョークの巻線容量や電解の ESL がさらに乗って、高域はもっと早く頭打ちになります
- DC バイアス・直流重畳のカーブは「こう沈む」というイメージで、実部品の特性値には合わせていません。実数値はメーカーのグラフで確認してください
- S パラメータの読み込みは合成サンプルで動作を示しています。本物のファイルでも同じコマンドで読めますが、配布条件は各社のライセンスに従ってください
おわりに
3 本を通して、EMI 対策部品の「見えない効果」を全部グラフにしてきました。
- 第 1 本: コンデンサは SRF までコンデンサ。三端子の「ESL が低い」は高域に効く
- 第 2 本: ビーズは 周波数で目覚める抵抗。ノイズを熱にして捨てる
- 第 3 本: 場面は 「アナログ信号を扱うか?」から始めて、周波数で部品を選び、直流条件と共振で詰める
「あってもなくても動く」と言われた部品たちが、データシートのグラフの上では、ちゃんと役割を持って並んでいる。その読み方さえ手に入れば、もう先輩の「ビーズ入れといた」に黙ってうなずく必要はありません。自分で選べます。それが、この連作で渡したかった羅針盤です。
最後に予告を 1 つ。この連作はずっとディファレンシャルモードだけを見てきました。残るもう半分、コモンモード — ケーブルにパチンと挟むあのフェライトコアや、コモンモードチョークの世界 — は、対策の考え方も測り方もまるごと別物です。それはまた、別の羅針盤として書きます。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
この記事は Zenn に初出したものを加筆・補足したものです ── Zenn の元記事を見る