電子機器の環境試験は、なぜやるの? ―「困るでしょ」から並べ直す
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電子機器を製品として世に出すとき、ソフトが思いどおりに動くだけでは足りません。振動・温度・静電気。こうした「使われる環境」に耐えられるかを、環境試験や EMC 試験で確かめます。
もっとも、環境試験を通れば一安心、とはいきません。出荷後に手こずる改修は、むしろマイコンのファームウェアなどソフト側の不具合だったりします。試験を全部通しても、安定してリリースし続けるのは難しい。それでも、ハードが環境に耐えることは、その安定をのせる土台になります。
いざ環境試験や CE マーキングを調べ始めると、試験の名前がずらりと出てきて、どこから手をつけるか分かりません。振動試験、温度試験、ESD 試験……名前を並べただけだと、機器をいじめる意地悪なテストのようにも見えます。
ですが、一つずつ「何のためか」を確かめると、理由はどれもシンプルです。振動で部品が外れたら困る。だから揺らす。夏場に誤動作したら困る。だから暑くして動かす。瞬停で止まったら困る。だから一瞬電源を切る。この「なぜ→だから」が分かれば、試験の全体像は見通せます。ソフト中心でやってきた方にも、それぞれの狙いが見えるはずです。
まず二つに分ける ―― 自分が困るか、周りを困らせるか
試験の数は多いのですが、最初に一本だけ軸を引いておくと迷いません。
温度や振動など物理的なストレスを見るのが「環境試験(信頼性試験)」、ノイズや静電気など電気的なストレスを見るのが「EMC 試験」です。試験所でも部屋が分かれます。ここでは境界にこだわらず、「現場で受けるストレスに耐えられるか」をまとめて見ます。
そのうえで「困りごと」の向きに注目すると、二つに分かれます。
- 自分が困る:外からの刺激(揺れ・暑さ・ノイズ・静電気)で、自分の機器が誤動作したり止まったりする。これに耐えられるかを見る試験です(ノイズや静電気への耐性は、EMC ではイミュニティと呼びます)。
- 周りを困らせる:自分の機器が出すノイズで、周りの機器を誤動作させてしまう。出しすぎていないかを見る試験です(EMC ではエミッションと呼びます)。
ほとんどの試験は、このどちらかに収まります。あとは順に「なぜ→だから」で確かめます。
揺れと衝撃 ―― 部品が外れたら困る
機械のそばに置く基板は、輸送中も稼働中も揺れます。はんだ付けした部品やコネクタが、振動で緩んで外れたら困る。だから周波数を変えて揺らし、激しく共振する弱点はないか、部品が外れたり割れたりしないかを確かめます(振動試験、IEC 60068-2-6 など)。
落下や衝撃も同じ発想です。据え付けや輸送でぶつけても、一発で動かなくなってほしくない。だから落下試験(IEC 60068-2-31 など)や衝撃試験(IEC 60068-2-27 など)で、決めた条件に耐えるかを見ます。
暑さ・寒さ・湿気 ―― 夏に誤動作したら困る
夏場や、機器の中にこもった熱で誤動作したら困る。だから高い温度の中で動かしてみます(高温試験、IEC 60068-2-2)。逆に、寒冷地や冬の朝に立ち上がらないのも困るので、今度は冷やしてみます(低温試験、IEC 60068-2-1)。
見落としがちなのが湿気です。昼は動いていても、夜間や休日に空調が止まると、機器の中で結露することがあります。水滴で絶縁が落ちたり、基板の上で金属がにじむように動いて短絡したら困る。だから湿度の高い状態に置いて様子を見ます。結露を見たいときは温度を周期的に変える試験、長く高湿にさらすなら定常の試験を使います(温湿度試験、IEC 60068-2-30 / -2-78 など)。
電源とノイズ ―― 一瞬の停電や、隣の機器のノイズで止まったら困る
工場やビルの電源は、いつも完璧ではありません。落雷や大きな負荷の切り替えで、一瞬だけ電圧が下がったり、途切れたりします。海外では、そもそも商用電源が不安定な地域もあります。その一瞬で機器が止まったら困る。だから、わざと電圧を下げたり一瞬切ったりして、止まらずに済むか、すぐ正常に戻れるかを確かめます(電圧ディップ・瞬停、交流電源の入力は IEC 61000-4-11、直流電源の入力は -4-29 など)。
ノイズもやっかいです。近くのモーターやリレーが入り切りするたびに、電源線や信号線へ細かく速いノイズが乗ってきます(EFT/バースト、IEC 61000-4-4)。落雷の影響や電源の切り替えでは、大きなサージ電圧がやってきます(サージ、IEC 61000-4-5)。どちらも誤動作・故障につながるので、似たノイズを線に乗せて耐えるかを見ます。
そして静電気(ESD、IEC 61000-4-2)。乾いた日に、ドアノブでパチッとくる、あれです。あの一瞬で機器が誤動作したり、リセットしたり、部品が傷んだりしたら困る。だからわざと放電を当てて挙動を確かめます。じつは ESD で効いてくるのは、電圧の高さだけではなく、放電の急峻さ(立ち上がりの速さ)もです。これは少し深い話なので、次回に回します。
自分が出すノイズ ―― 周りを困らせたら困る
ここまでは「自分が耐える」話でした。最後の一つは向きが逆です。
どんな電子機器も、動いている間は多少のノイズを出します。それが強すぎると、周りの機器を誤動作させてしまう。自分は無事でも、隣を困らせたら困る。だから、自分が出すノイズの大きさを測って、決められた範囲に収まっているかを確かめます。これがエミッション試験です。入口の規格は対象で変わり、家庭・オフィス向けなら CISPR 32、産業環境向けなら IEC 61000-6-4、高周波を利用する ISM 機器なら CISPR 11 などです。
「自分が困らない(イミュニティ)」と「周りを困らせない(エミッション)」。この両輪がそろって、はじめて現場に出せる、という考え方です。
で、CE マーキングはどこにいる?
ここまで来ると、CE マーキングの位置も見えてきます。CE は、EU で製品を流通させるために、関係する EU の法律(指令)への適合を製造者が示す表示です。これまで見てきた中で、ノイズや静電気まわり(EMC 試験)は EMC 指令と地続きですが、振動や温湿度などの環境試験まで CE が必ず求めるわけではありません。CE は適合の看板ですが、すべての試験を一枚にまとめた印ではない、ということです。
ただ、ひとつ誤解しやすいところがあります。多くの電子機器の CE(EMC 指令や、感電・火災を防ぐための低電圧指令など)は、原則として「自己宣言」です。どの規格を適用するかを選び、技術文書をそろえ、適合宣言書に署名して責任を負うのは、製造者自身。試験所(JQA など)は、依頼した規格どおりに試験をして「受かった」という証拠(レポート)を出してくれますが、宣言そのものを代わりにやってくれるわけではありません(製品分野によっては、第三者機関の関与が要る場合もあります)。
だからこそ、丸投げはできません。「なぜこの試験が要るのか」を、自分の側で分かっておく必要があります。
それに、試験をやる理由は CE だけではありません。自社製品の品質を自分で担保したいときも、受託開発で発注元が試験を求めるときも、やることは同じ「困りごとの予行演習」です。
おわりに
環境試験は、名前が多くて最初は身構えます。でも一つずつ「なぜ」を聞いていくと、どれも現場の素朴な心配ごとに戻ります。困る場面を先に作って、耐えるかを見る。それが環境試験の基本です。
次回は、この中から ESD(静電気)を取り出して、もう一段深く掘ります。電圧の高さだけでなく、放電の速さにも注目する話です。
この記事は Zenn に初出したものを加筆・補足したものです ── Zenn の元記事を見る